スイス南東部サン・モリッツと名峰マッターホルン麓のツェルマットの2大山岳リゾート、291Km(東海道線の東京〜豊橋間に相当)を結ぶ、スイス屈指の景勝路線が「氷河特急ルート」です。 スイスで最も有名なグレッシャー・エクスプレス/氷河特急は、約8時間ほどでこのルートを走り抜けますが、路線自体は、素朴な田舎の風景が広がるローカル線そのもの。
ひなびた小さな町や村、風光明媚な展望台などもあるので、ローカル列車で途中下車を楽しみながらの車窓の旅も楽しみ方の一つです。 氷河特急と同じ車窓の景色を、あえて普通列車を乗り継いでのローカル線の旅も楽しいものです。
サン・モリッツから クールへ
絶景のランドヴァッサー橋
日本の箱根登山鉄道と姉妹鉄道であるレーティッシュ鉄道の列車でスタート。
普通列車と言えども氷河特急と同じスピードで、同じ車窓が楽しめます。
橋脚とアーチが美しい石造りのランドヴァッサー橋の撮影名所へは、フィリズールで途中下車し、ハイキングで行くこともできます。 ライヒェナウ駅が氷河特急ルートをさらに西に向かう乗換駅になっていますが、そのままこの列車の終着駅クールまで足を伸ばし、途中下車してみましょう。 クールは古くからの南北ヨーロッパを結ぶ交易路の中心として栄えてきたスイス最古の街。 しばし古い街並みを歩いてみましょう。
クールから ディセンティスへ
スイスのグランドキャニオンに沿って走る
再びクールから今来た道を戻り、ライヒェナウからサン・モリッツ方面への線路と分かれて、有名な大河となるライン河沿いを走ります。 スイスのグランドキャニオンと呼ばれるこの辺りは、今までとは違った景観を見せてくれます。 イランツ、トゥルン などのひなびた町で途中下車するのも良いでしょう。
この列車の終着駅、世界遺産に登録されたベネディクト派修道院のあるディセンティスからは、マッターホルン・ゴッタルド鉄道という私鉄に変わります。このあたりは列車によっては数人しか乗っていないこともあり、氷河特急ルートの中ではもっともローカルなところです。
線路は一気に急こう配、急カーブの山岳路線になり、客車の床下からは時々「ガリガリ」という音が聞こえます。この鉄道がアプト式という、急こう配に対応するための歯車による登坂装置を設備しているためです。
ディセンティスから アンデルマットへ
山間の湖が美しいオーバーアルプ峠を越えて、ヘアピン・カーブの線路を下ると、遥か下方に広がるのが宿場町のアンデルマットです。 峠の上り下りに少し疲れた電車はここで一休み。 途中下車して駅近くの展望台に登ってみるのもよいでしょう。
アンデルマット駅で一休みするローカル列車
アンデルマットから ブリークへ
フルカ峠をめざすローカル列車
一息ついた電車はふたたびウルスレン谷をフルカ峠へ。 かつては大雪、雪崩などの自然災害に悩まされ、冬は運休せざるを得ない厳しい自然条件のもとの鉄道路線でしたが、今では長さ15kmあまりのフルカ・トンネルへ突入すると、峠向こうのオーバーワルト駅へ難なく到着します。 トンネル開通前の峠を行く旧線は、ローヌ氷河を望む路線でした。 1982年にフルカ・トンネルが開通すると、氷河特急の名前の由来にもなっている絶景は見ることができなくなりましたが、列車は1年を通して安全に運行することができるようになりました。 旧峠には旧線を復活させたSL列車や、絶景が楽しめるポストバス路線もありますので、途中下車で乗車をしてみるのもよいでしょう。
クルマもカートレインに乗って峠を越えます
カートレインの様子
ブリークから ツェルマットへ
電車は分水嶺を越え、ローヌ谷沿いに古い宿場町ブリークへ向けて軽い足取りで下ります。 右側のアレッチの山系に登れば、世界遺産に指定されたアレッチ氷河が一望できます。
ブリークは南北ヨーロッパを結ぶ幹線駅でしたが、近年完成したレッチュベルク・ベース・トンネルにより幹線ルートから外れて、今では昔のたたずまいを残す静かな駅となりました。ここから旅行者や登山者の姿が目立つようになり、ローカル線から華やかな観光路線になったことを教えてくれます。
宿場町のブリークに到着。終着ツェルマットまでラストスパート
電車はさらに南へ進路を変えて、再び急こう配を登り始めます。川を縫うように走り、近代的なテーシュ駅に到着。
駅横にはローカル線には不釣り合いな大駐車場がありますが、車が入れないリゾートのツェルマット入りする人はすべて、この駐車場に車を止めて、1駅間だけ電車に乗ることになります。 ツェルマット駅前には数多くの馬車がお出迎え。 氷河特急に乗らない氷河特急ルートの旅もゴールとなります。